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ビジネスは人を笑顔にするための手段

湯川 恭光さん ナエドコ代表取締役CEO
寄付者インタビュー

高校生・大学生向け無料で1on1を提供しているOtonatachi(オトナタチ一般社団法人)の活動は、支援者の方々の寄付によって支えられています。

 

今回は、支援企業の一つである株式会社ナエドコの代表、湯川恭光さんにナエドコの活動や、これまでの歩み、寄付への想いについて幅広くお話を伺いました。

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湯川恭光さん
株式会社ナエドコ 代表取締役CEO
和歌山県出身。横浜国立大工学部中退。サービス業に魅了され居酒屋の店長やホテルのウェイターを経験。世の流れを読めるようになりたいと、神戸大学経済学部に編入。2009年阪和興業に入社。2016年デロイトトーマツコンサルティング、2018年キャディ、リンカーズ。2021年12月にナエドコを創業。これまでに累計3000社以上の町工場を訪問。川崎市の認定コーディネーター、長岡技術科学大学の特任準教授も務める。4児の父。最近はまっていることは、酵素風呂、食トレ、散歩。

 

現場で汗をかく職人が報われる仕組みをつくりたい​​​​​​​​​​​​​

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━━ まずは、2021年に創業された株式会社ナエドコについて教えてください。

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ものづくりの現場や一次産業など、現場で一番汗をかいているひとたちに対価が行きずらい構造に違和感があって。それを変えていくために創業したのが、「スーパー町医者集団」のナエドコです。

ナエドコでは、マーケティングとサプライチェーン構築のノウハウで、技術領域の中小企業の事業成長を支援をしています。
 

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━━ スーパー町医者集団、面白い表現ですね。もう少し詳しく聞いてもいいですか

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たとえば、デザインに特化してる人間もいれば、 データ整理が得意な人や、社長の気持ちを掴むのがうまい人もいる。一人で完璧な人はいないけど、得意領域を持った優秀な人ってたくさんいると思うんです。


そういういろんな領域のプロフェッショナルが集まって、お客さんの個別の課題に合わせてチームを組んで解決するのが、スーパー町医者集団です。

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━━ 得意領域に特化した専門家の集まりということなんですね

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そうですね。ちなみに ナエドコの正社員は自分を入れて3人。あとは業務委託や副業として関わってくれています。
 

個人事業主としてデザイナーをしている人や、自分で会社を運営しながら海外マーケティングの分野でサポートしてくれている人、外資系コンサルの出身で今は花屋さんをしながらうちで働いている人もいますよ。​​​​

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​​━━ 多彩なスキルやバックグラウンドを持った人たちが、ナエドコを中心にゆるやかにつながっている。ユニークな組織ですね。そもそも、どうして町医者集団を作ろうと思ったんでしょう。

これを考えついたのは、前職のキャディでの経験がきっかけです。

 

キャディは、AIやデータを活用して製造業の部品調達のための最適な発注先を提案するプラットフォームをつくっている会社。これができれば、営業リソースが限られた町工場も、営業コストをかけずに新規案件を獲得できるようになるし、メーカー側の生産性もあがる。いわば、製造業の業界の特効薬をつくろうとしていて。

 

この取り組みは、現場で働く人に対価がいく仕組みをつくりたいという自分の考えにもぴったり合っていました。でも、まだプラットフォームが完成していないからこそ、どうしても歪みが現場にいってしまう。

そういう状況をみているなかで、全体を一気によくする特効薬だけじゃなくて、一つひとつの会社を強くしていく町医者があってもいいんじゃないかと思ったんです。

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━━ ナエドコではどんな企業を支援しているんでしょう。

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いま一緒に事業をしている会社の一つは、川崎市にある大矢製作所という金属加工会社です。

大矢製作所は、大手メーカーの3次請けの会社。元請から材料を渡されて、加工賃だけで部品を製造していました。下請けの会社って、元請の都合で受注数が激しく変動するから、利益を上げて会社を大きくすることが難しいんです。

 

たとえば、毎月1万5000個の部品の発注があったとしても、急に8000個に減らされることもある。そうなると今までの体制を続けていると人件費がかさんで赤字になってしまいますよね。だからといって人を減らすと、またすぐに発注が増える可能性もある。

そんななか、何かできることはないかと相談を受けて。元請に頼らない事業として新しくBtoC向けの商品を開発しました。

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━━ どんな商品なんですか。

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金属製のおちょこです。1年ほど前から制作をしはじめて、1週間前に販売を開始したところなんですよ。​​​​​​​

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この曲線は「へら絞り」と呼ばれる技術を使っています。飲み口の部分を薄く仕上げているので、切れ味が良くて飲みやすい。

 

あと、上下で色が違うでしょう。これは下の部分は銅で上がアルミなんです。これは、大矢製作所が持っている「摩擦圧接」という高度な技術を活かして2つの素材を繋げています。アルミと銅なので熱伝導性が抜群に高く、冷酒などめちゃくちゃキリッと飲めるんですよ。

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リスクを負って、事業の種を一緒に育てる

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━━ 新事業の立ち上げに、ナエドコはどう関わっているんでしょう。

ナエドコのメンバーを派遣して、商品のデザイン企画から開発、マーケティングや実際物づくりのサポートなど事業開発に関わる全部をやっています。

  

大矢製作所にはBtoCに特化した「OHYA」という会社を新しくつくってもらって、株を半分もらいながら、数百万円の出資もしています。

  

そんなお金どこにあるの?って感じですよね(笑)。ナエドコでは主軸の事業支援に加えて、大手製造会社のコンサルや、人材育成プロジェクトなどもしています。そこで得た収益を、事業支援に回しているんです。

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━━ 第三者の立場ではなく、人やお金を出して一緒に事業をつくっているんですね。

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同じ釜の飯を食うというか。リスクを取りながら、事業の種を一緒に育てていく。そんな泥臭さと人情を大切にしていきたいと思っていて。

そういう意味でも、ナエドコの会社のマークも、お客さんと同じ釜の飯を食うというイメージで、ロゴを釜の形にしました。​​

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━━ すごい覚悟ですね。

出来上がった商品をたくさん売るのは、ロジックの世界だと思うんです。けど、その手前のものを生み出すっていう部分は人の心が結構なウェイトを占めている。

人の心はロジックじゃ動かないんですよね。やっぱり、生み出す部分はハートなんだと思います。

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━━ 生み出す部分は、ハート。

たとえば、急に外部からきた人間から「新しいものをつくりましょう」って言われても、現場の職人さんからしたら納得いかない。ただ仕事が増えるだけだし、今までと違うことをわざわざやりたいと思わない。
 

今回のプロジェクトでも事業をはじめる前の段階で社長さんと何十回も会っていて。一緒に話をしたり、お酒を飲んだり。現場の職人さんとも話をしながら、関係性を築いていきました。そうすることで、はじめて一緒にものづくりをすることができる。

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━━ 頼関係を築くところから、資金や人の投資まで。時間や労力もかかるし、ただ儲けたい、という気持ちだけではできないことだと思います。

僕自身、あいつは金になりそうとか、仕事になりそうとか、そういう人付き合いが無理なんです。

 

だから、うちの会社のメンバーで一番大事にしているのは、思いやりの心があるかどうか。それが創造力の原点だと思うので。 

 

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厳しくてあたたかい

職人たちに支えられた人生

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━━ 湯川さんのお話を聞いていると、ものづくりや一次産業の力になりたいという想いがとても強いように感じます。

力になりたいっていうよりは、好きなんですよね。そこにいる人たちの人柄が好きだし、単純にお世話になってきたっていう気持ちが強いですね。​

 

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━━ ものづくりの現場との出会いは、いつからなんでしょう。

新卒で入った阪和興業という大阪の大手商社がきっかけですね。
そこでは、鉄を売る部署に配属されました。大きい会社から小さい町工場まで、いろんなお客さんを持たせてもらったんですけど、そのお客さんたちもまた厳しくて。

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特に印象に残っているのは、うちの部署で一番大きいお客さんだったフォークリフトメーカーさん。僕が担当するまでは10年以上課長が担当していたんですけど、僕が手を挙げて、初めて新入社員が担当することになりました。

 

お客さんからしたら、今まで課長を相手に商売していたのに、急に鉄の「て」の字も知らない新参者が担当になって。トンチンカンな対応ばかりしてしまって、何度も出禁になりました(笑)。

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━━ 厳しいですね。

でも、2年くらいしたときに、そのお客さんが「今から飲みにいくぞ」って焼肉につれてってくれて。

その時に、僕を育てるためにあえて厳しく指導してたっていう話をしてもらって。その人とは今でも家族ぐるみの付き合いが続いています。

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━━ てるためにあえて厳しく接してくれる。とても温かい人ですね。

そういう人たちに育ててもらってきた一方で、商社で働いている自分は年収1000万円ぐらいもらっていて、現場で働いている職人さんはどれだけ高い技術をもっていても400万円くらい。

それがすごく違和感で。この構造を変えたいと思っていました。

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━━ 今のナエドコの事業もそこでの想いがつながっているんですね。ちなみに、湯川さんがお仕事されてるなかで、1番やりがいに感じる瞬間はどういう時なんでしょう。

誰かと誰かがつながってシナジーが生まれた瞬間が幸せですね。それは、お金払ってでもやりたいことです。

 

たとえば、ナエドコのメンバーと、工場の職人さんがガチっとはまって新しい商品が生まれるとか。エゴかもしれないんですけど、僕を介さなかったら出会わなかっ人たちが、ぶつかり合いながらも新しい価値をつくって、お互い仲良くなっていくってなんかすごくいいなって。

 

だから飲み会の幹事も好きなんです。

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与えてもらったからこそ、返したい
寄付に込めた想い

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━━ 湯川さんにとって、大事なのは人なんですね。

やっぱり、自分は人に育てられてきたからですかね。取引先のお客さんも、会社の上司も、飲食時代の先輩も。本当に両手じゃ収まらないくらいの人に育てられてきた。

  

心の貸し借り帳で言うと、借りだらけ。負債が広がっているから、返していかなきゃいけないなあと。

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━━ 寄付活動も「返す」という想いにつながっているんでしょうか。

そんなに大層なもんじゃないですけどね。でも、寄付をするのは、これまでに与えられたものがたくさんあるから、自分も人に与えるっていう考え方。

だから、ナエドコの売り上げのうち何パーセントかは必ず寄付すると決めていて。オトナタチの他にも、母校の横浜国立大学や、国境なき医師団、COTENなどにも寄付させてもらっています。

━━ いろいろな団体があるなかで、オトナタチを寄付先として選んでいただいたのはなぜでしょう。

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知人の紹介で代表の長谷川さんを知って。まず、長谷川さん自身がすごく面白い人だなと思いました。その上で、僕が学生だったらオトナタチの1on1を絶対にやりたかったなと感じて。


私の場合は、高校時代は陸上しかやっていなかった。そこから大学に入って、一気に視野が広がって。バックパッカーとか、飲み屋とか、やりたいことがどんどん増えていったんですよね。歩んできた道に後悔はないけど、そういう視野を広げる機会が、もっと早くあればよかったなと。

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今の日本の教育環境ってどうしても視野を広げるのが難しいじゃないですか。そういうなかで、1on1を通じて自分を内省したり、視野を広げられるのはすごくいい機会だなと思いますね。​​

━━ 活動に賛同していても、実際に寄付をしたり何か行動をおこすことって、少しハードルが高いと感じる人も多いと思います。湯川さんはそういうことはなかったですか。​

それは全くないですね。自分にとっては、寄付をきっかけにいろんな人と繋がりを持たせてもらえるという感覚もあって。そこで学ぶことも多いので、なんだろう、お布施みたいな感覚です(笑)。

 
たとえば、(オトナタチの代表の)長谷川さんと話すことで、自分の会社の経営の方針を考えるヒントになったり、大学への寄付を通じていろんな先生との繋がりができたり。人のためにもなるし、自分もいい影響をうけています。 

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━━ 今回のインタビューを通じて、ナエドコの事業も、寄付活動も、湯川さんの「人」を大切にする想いから始まっているものなんだと感じました。

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事業を伸ばすっていうのは、笑顔にするための手段だと思っていて。そのために、ビジネスがあったり、会社があるんだと思います。

僕の人生はいろんな人たちに支えられて、助けてもらった。だからこそ、この業界をちょっとでも良くして、現場の人がちゃんと儲かる仕組みをつくっていきたいです。

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(2024.12.11)

 聞き手:高井瞳

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